● 毎日新聞では、郵便不正事件に伴うことで容疑が浮かび上がったとされる、当時の大阪地検特捜部長と副部長が逮捕される過程を細かく報じています。
ここで疑問視されるのは、「罰金」で処理されないかというところです。罰金を求めるとなるとさらに認める供述があれば、起訴の多くで使われる「略式命令」というものが使われます。当然この方法は書類で一人の裁判官が判断します。さらにその判決後不服の場合は正式な公判を請求できるという点があります。したがって、罪を認めていて争う事をしない被疑者及び検察官にとっては労力を著しく省くことができることが特徴です。
当然罰金刑しかならないのだから、捜査上の故意の改ざんをしても、認めれば「罰金」で済むという慣例がなりたってしまうことになります。それでは、全く意味をなしません。「証拠隠滅」の罪に関しては最高刑で懲役2年というこの事件に対しては極めて軽い刑になります。本来は懲役7年位の実刑を与えるのが相当です。せめて懲役2年の実刑判決の判断をしないと今後こういった改ざん事件はあとをたちませんし、国民の信頼は到底得られません。
証拠改ざん 「逮捕してください」前部長、覚悟の否認
毎日新聞 10月11日(月)2時30分配信
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家宅捜索を終えて大坪弘道前部長の自宅マンションを出る検察の係官ら=大阪府吹田市で2010年10月2日午前10時12分、宮間俊樹撮影
検察への信頼を根底から失墜させた、郵便不正事件に絡む証拠改ざんと隠ぺい事件。最高検は11日、大阪地検特捜部主任検事、前田恒彦容疑者(43)を証拠隠滅罪で起訴し、犯人隠避容疑で逮捕した前特捜部長の大坪弘道(57)、前副部長の佐賀元明(49)両容疑者の拘置延長を請求する。「検察崩壊」の危機に直面した時、内部で何が起きていたのか。水面下の動きを追った。
10月1日午前、大阪・中之島の大阪高検庁舎内で、吉田統宏・最高検公判部長(57)が大坪前部長を問いつめた。容疑を認めれば逮捕見送りの可能性があることを知りつつ、前部長は言い放った。
「徹底的に闘う。逮捕してください」
断続的に行われていた聴取は、6日目になっていた。「刑事責任を認めて謝罪すれば在宅起訴も検討する」。それが検察上層部の方針だった。前部長らに考える時間をもう一度だけ与え、逮捕回避を模索した。
だが、大坪前部長は闘う姿勢を鮮明にした。佐賀前副部長も否認を貫く姿勢を示し、下着を詰めたバッグを持って出頭してきた。
「逮捕するしかありません」。午前中の聴取が終わると、大阪に派遣されていた最高検の捜査チームは2人の供述内容を東京・霞が関の検察トップに伝えた。
大林宏検事総長(63)や伊藤鉄男次長検事(62)らによる協議を経て、逮捕の方針が決まったのは、午後1時半だった。
◇「尋常ではない」
特捜部の検事が証拠品のフロッピーディスク(FD)に保存されたデータを改ざんした−−。
衝撃的な情報が最高検に伝わったのは9月20日夕だった。休日出勤していた最高検刑事部の八木宏幸検事(54)が、一報を伝える大阪高検の榊原一夫刑事部長(52)からの電話を受けた。
「尋常ではない事態だ」。八木検事が池上政幸刑事部長(59)に報告すると、情報はその日のうちに伊藤次長検事を経由して大林総長に伝わった。
郵便不正事件で検察側は、厚生労働省の村木厚子元局長(54)=無罪確定=が「04年6月上旬」に元同省係長、上村(かみむら)勉被告(41)=公判中=に偽証明書の発行を指示したとの構図を描いていた。
FDに保存された偽証明書の最終更新日時は、特殊なソフトを使って「04年6月1日未明」から「04年6月8日」に書き換えられていた。1日未明は検察側が描いた構図と矛盾するが、8日ならぴたりと当てはまる。多くの検察幹部が意図的な改ざんと直感した。
翌21日。「すぐ大阪へ行け」。午前9時半から約1時間の会議で最高検が捜査に乗り出す方針が決まり、刑事部の長谷川充弘検事(56)が現地に派遣されることになった。
「ブツ(物証)さえ手に入れば事件になる」。FDを保管している上村被告の弁護人に連絡を取るよう指示が出た。
長谷川検事が主任となった7人の検事による捜査チームは、FDのコピーの任意提出を受ける一方、ソフトに詳しい専門家から意見を聞き、その日の夜に前田検事の逮捕に踏み切った。
直後から、今年1月末に地検内で改ざん疑惑が表面化していた事実が明らかになっていく。
前田検事の同僚たちは「部長や副部長は意図的な改ざんと知りながら調査や公表を制止した」と聴取に証言した。前部長らの刑事責任を見極めるカギを握っていたのは、前田検事の供述だった。
検察庁が容疑者の供述内容を公式に明らかにすることはほとんどない。24日、「容疑を認める」と一部で報じられると、幹部の一人は「誤報だ」と明言し、事態の鎮静を図った。しかし、実際には前田検事は逮捕当日から容疑を大筋で認め始めていた。
大坪前部長らの立件を視野にいれながら、長谷川検事のチームはひそかに捜査を本格化させていった。
◇「おれを切り捨てるつもりだ」
東京地検特捜部のOBでもある最高検の吉田統宏・公判部長が、大坪弘道・大阪地検前部長から初めて任意で事情を聴いたのは、前田恒彦検事の逮捕から2日後の9月23日だった。
「吉田さんは何を聞きたいのかさっぱりわからん。『正直に言えよ』って聞くか、黙っているだけだ」。聴取は24日も続いたが、大坪前部長は親しい知人に余裕すら見せていた。「あんなんが特捜の調べか」
だが、26日に聴取が再開したころから、様子が変わり始める。「認めないと逮捕になるぞ」。吉田部長の追及は厳しさを増していった。「最高検はおれを切り捨てるつもりみたいだ。信じられん」。前部長は知人に電話をかけ、怒りに満ちた声で最高検を批判した。
聴取は27、28日も続いた。特捜部長経験者を逮捕すれば大林宏検事総長の進退問題に発展することは必至。一部の法務省幹部からは組織防衛のために強行策を回避するよう求める声があがった。
◇「罰金で」の声も
「本当に逮捕する必要があるのか」。検察内部にも消極的な意見があった。念頭にあったのは、99年に発覚した神奈川県警捜査員による覚せい剤使用の隠ぺい事件。犯人隠避容疑を認めた元県警本部長の逮捕が見送られ、在宅起訴で有罪が確定した。
「罪を認めて辞めれば、罰金で済ませられないか」。検察首脳からはそんな声も漏れたが「身内に甘い」と批判されるのは明白だった。30日、疑惑が表面化した際に前田検事が大坪前部長らの指示で作成し、パソコンから削除したとされる「上申書案」のデータが復元されたとの報告が検察首脳に上がった。選択肢は「逮捕か在宅起訴か」に絞られた。
1日午後9時47分。再開された聴取で徹底抗戦を宣言した大坪前部長に逮捕状が執行された。佐賀元明前副部長が逮捕されたのはその1分前。前田検事による改ざんを故意だと認識しながら、過失として説明するよう指示したという容疑だった。
刑事責任の追及に懐疑的だった検察関係者はつぶやいた。「どちらに転んでも批判されるなら、進むのも一つの判断かもしれない」
だが、前部長らによる「隠ぺい」を認める供述をした前田検事の同僚の中には、昨年7月に改ざんを打ち明けられながら、その事実を上司に報告しなかった疑いが持たれている検事もいる。
「保身のために『最高検のストーリー』に迎合した」。こんな疑念の声は少なくない。「自ら描いた構図に合うように証拠品を改ざんした前田検事の供述を信用できるのか」。検察内部にすら、前部長らの無罪の可能性を指摘する声がある。
「過失だと思っていたんだから、過失で処理するのは当たり前だ」。大坪前部長の弁護人は強調した。「改ざんだと知っていたら、上司に報告しないわけがない」。前部長の意思は「否認を貫くことで確定している」という。東京特捜OBが名を連ねる最高検の捜査チームと大坪前部長らの攻防は、なお続く。
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最終更新:10月11日(月)2時43分
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